アートセラピーと色彩心理

当協会が提供するアートセラピーは、日本オリジナルの方法

当協会は2003年に設立されました。その母体は1989年創立の色彩心理とアートセラピーの講座「色彩学校」(共同代表:末永蒼生・江崎泰子)です。色彩心理をキーワードに、心を自由に表現するワークを中心にした型破りの講座でした。創立当時、ゲスト講師として詩人の谷川俊太郎さんや絵本作家の五味太郎さんらも講義。心の時代に一石を投じるユニークな学校として始まりました。
因みにここでの色彩心理とアートセラピーのルーツは、末永蒼生が1966年以来運営している「子どものアトリエ」(現アートランド)における色彩心理の実践研究です。“色は心の言葉”という発想で、人間らしい欲求や感情を丸ごと表現できる教室で子どもたちはのびのびと創作を楽しみ潜在的な能力を発揮していきます。このように無条件に自由表現ができる場を提供するというのが、20代より実験的な美術活動をしていた末永蒼生が編み出した“自由メソッド”です。いわば、瞬間瞬間をあるがままに感じ、生きる喜びを表現する場です。
このメソッドの研究により、色彩を中心にした心のケアは子どもにとどまらず年代を超えて生きる意欲を高める上で有効であることが知られるようになりました。そんな中、末永と「色彩学校」チームは色彩を通して心が元気になる方法、たとえば誰でもできるぬり絵による色彩アートセラピーやセカンドステップセラピーなど数多くの技法を開発してきました。1992年にはぬり絵ブームの草分けとなった『色彩楽』を出版。これらは日本オリジナルのアートセラピーといえるでしょう。

色彩アートセラピーとは

一般的に言われる「アートセラピー(芸術療法)」とは、絵画だけでなく音楽、ダンス、演劇など広範囲な創作活動を含み、それらの表現活動を通して心身の充足を図ろうというものです。古くはドイツのシュタイナー、スイスのユングなどによる方法が世界的に知られています。
同協会では、その中でも色彩表現(描画やぬり絵など)を主体にしたアートセラピーを行っています。なぜなら、色彩は五感のうちでもとくに人間の感情や記憶、過去のトラウマなど潜在意識と深く結びついているからです。そして人は誰でも、色彩を表現することで滞っていた感情やストレスを表出し、自らを癒す能力を秘めています。
何より、心のままに色をぬることは絵の技術や知識などなくても、子どもも大人も高齢者も、生活の中で誰もが気軽に楽しめる良い方法と言えるでしょう。

色彩心理について

自由に表現した絵やぬり絵に、自分のどんな感情や無意識が表れているのか。「色彩心理」を手がかりにその意味を探っていくことができます。
「色彩心理」とは、色と人間心理の関わりを探求する研究分野で、「人はどんな心理状態のときにどの色に惹かれるのか」「それぞれの色は人間の心身にどのような影響を与えるのか」といったことを明らかにしていくものです。今から70年近く前に、アメリカの研究者による「子どもの絵」の研究から始まりました。
本協会の代表理事である末永蒼生は、はたして日本の子どもはどうなのか実証すべく、1960年代に自由創作の場「子どものアトリエ」を開設。以来、実践と研究を重ねてきました。その中で、色の意味や効果は固定的なものではなく、個々人の歴史や体験、文化によっても異なり、なおかつ流動的に更新されていくことを発見。その変化を表現することが心のエネルギーの循環、すなわちアートセラピーに結びつくと考えました。その手法を統合し一般にも活用できるよう体系化したのが、「末永ハート&カラー・メソッド」です。

末永メソッドとメンタルケア

「末永メソッド」は海外の方法を検証しつつ日本人のメンタリティや文化、時代に沿った手法を実践してきました。一般に知られるようになったのは、阪神淡路や東日本大震災などの災害や事故、事件やDVなどのトラウマに対応する心のケアの支援活動がきっかけでした。
この日本発の方法は国内の教育や医療、カウンセリングやセラピー現場だけでなく、一般の子どもから高齢者まで、日常生活を元気に送るためのメンタルケアの方法として様々な施設やワークショップの場で活用されています。一方、海外においても注目を集め、現在、韓国でも当協会のネットワークが広がり、日常の心のケアのほか、脱北児童のケアなどに末永メソッドを活かす活動をしています。

色彩アートセラピーの社会的活用範囲

同協会に所属する会員の多くは、「色彩学校」で上記のメソッドを学び、色彩心理を用いたアートセラピストやカウンセラーとして活動する専門知識を身につけています。
でもまずは何より自分のために、そして身近な人に役立て、その実感と経験をもって社会的な活動をスタートさせてほしいと考えています。
そうしたプロセスを経た同協会の会員の活動は、子どもから高齢者までじつに多岐に渡ります。
子ども対象であれば、自宅でアトリエを開いて絵を介した子育てカウンセリングを行っている方、保健室や支援学級などの教育現場で子どもの心育てに役立てている方、あるいは障害を抱えた子や特徴のある子の個性や創造性を育むためにアートセラピーを導入している方……などなど。
成人対象の場合には、働く人のストレスケアや自己発見、コミュニケーションや人間関係など、協会員たちによるさまざまなテーマのカラーワークショップが各地で開かれています。また企業での社員研修やメンタルヘルスを行っている方、悩みを抱える人に対する心理カウンセリングを実施されている方も……。意識で感情をコントロールしがちな大人には、言葉にならない思いが自ずと浮上しやすい色彩表現だからこそ有効なのではないでしょうか。
さらに近年は、高齢者のためのアートセラピーを行う協会員も増えてきました。高齢者にとっても、色を楽しむ時間は大切。認知症があってもなくても、自分の内面を表現する時間をもつことで生き生きした感覚が甦ります。超高齢化社会と言われる日本で、身体的ケアに比べ後回しになりがちな精神的ケア、そこにアートセラピーを役立てていけたらと思います。