作品からひもとく01 コロナ時代、心の耐性を養うアートの力

「国際アートセラピー色彩心理協会」末永蒼生

Withコロナの時代になり、これから必要なのはこの過酷な日々の中でも自分らしい幸福をあきらめないための心の耐性かもしれません。そこに役立つことの一つにアートの力があります。ここにある子どもたちの絵をみてください。

上の絵は、コロナ感染が拡がり始めた3月、10歳の女子が描いた絵で、左は「月夜に咲く桜」、右は「昼間に咲く桜」です。一度に夜の桜と昼の桜を描く心境は何を語るのでしょうか。

この絵を見たときに思い出したのは東日本大震災の時に7歳の子どもが描いた「夜に咲く花」の絵でした。

▲2011年 東日本大震災の避難所で描かれた「夜に咲く赤い花」(7歳女児)

また、阪神淡路大震災の時にも似たような昼と夜が同時に描かれた絵を見たものです。

▲1995年 阪神淡路大震災の避難所で描かれた2つの世界(5歳男児)
向かって右側には太陽が描かれているが、本人は月を描いたという。

子どもたちは強いショックを感じた時、世界が真っ二つに割れたようなイメージを描くことがあります。平気そうに装っていても、その鋭い直感で衝撃の深さをストレートに感じとっているのでしょう。そして描くことで少しでも不安を吐き出そうとする心理的な修復力が働くのだと感じます。

5月以降コロナ感染が広がる中でも子どもたちの絵はメンタルケアの働きを感じさせてくれます。

2020年5月 描き殴られたぬり絵  10歳男児

上のぬり絵は私たちの「子どものアトリエ・アートランド」のオンライン教室に通っている小4の男児が5月下旬に色を塗ったぬり絵です。元の絵柄が見えなくなるほどクレヨンで激しくなぐり描きされていました。感じたのは、やはり不安やストレスを自ら吐き出す子どもの生命力です。

アートの力というと元気で楽しげな絵をイメージしがちです。それも大事ですが、むしろ本当に苦しい時には子どもたちの絵には不気味なイメージや濁った色使いが表れます。それは子どもたちが無意識のうちに心理的な浄化につながる力を秘めていることを示しているのです。実際、ぬり絵になぐり描きをした男児は、そのあと気分が安定し勉強に集中できたということでした。私たち大人も大いに見習いたい“アートの力”だと思います。

末永 蒼生(すえなが たみお)
色彩心理研究家/「色彩学校」「国際アートセラピー色彩心理協会」代表理事

1960年代から実験的な美術活動を行い、近年、当時の記録映画が内外の美術館で上映されている。64年より日本児童画研究会で色彩心理の研究を行い、66年「子どものアトリエ・アートランド」を創立、89年に「色彩学校」を開設。色彩心理とアートセラピーを組み合わせた「末永ハート&カラー・メソッド」を体系化。多摩美術大学非常勤講師をはじめ、内外の大学で講義を担当。東日本大震災など各地の被災地でアートセラピーの活動を支援。NHK「課外授業ようこそ先輩」などテレビ出演や講演活動も多い。著書にロングセラーとなった『色彩自由自在』シリーズ(晶文社)『心の病気にならない色彩セラピー』(PHP)など多数。