コロナ時代、非日常の安らかで豊かな日々

「国際アートセラピー色彩心理協会」末永蒼生

人生、想定外の連続だけれど新型コロナのパンデミックは世界スケールの驚きと深刻さだった。一方、僕個人は春先から体調が悪化し、胃潰瘍の痛みに襲われていた。日頃から受けている「色彩治療」の見立てでは癌反応もあり、早速、治療を継続することになった。

※色彩治療:治療効果のある色の周波数を転写した特殊なチップを患部やツボに貼り自己治癒を促す治療法

今年は僕にとってマクロとミクロの二つの次元で生活を変えざるを得ないことになってしまったわけだ。幸いなことにコロナ生活のお陰で仕事を絞ることになり治療に専念できる時間を持つ事ができた。何が幸いするか分からないもので、ものごとは案外うまく流れていく。

というわけで、じっくりと自分に向き合う暮らしを楽しんでいる。自分のアトリエにかけてある絵を気分に合わせて掛け替えたり、昔読んだ白土三平の大河マンガ「忍者武芸帳影丸伝」シリーズを読み直したり。

のんびりできたのがよかったのか、毎週往診してもらっている「色彩治療」も回を追う毎に効果が高まり辛い症状が面白いほど消えていく。2ヶ月ほどで癌の反応も消えてきたようだ。ストレスが少ない精神状態が免疫力を上げているのだろう。心と体が手を携えて回復力を押し上げていく実感がある。いまは心と身体が仲良し生活をしているんだと思う。振り返ってみると、仕事のスケジュールを気にしていた生活では、心と身体はハーモニーがうまくいってなくて苦労していたな〜。

こんな生活の中でふと思い浮かべる映画がある。タイトルは「パターソン」。ジム・ジャームッシュ監督の2016年公開作品。

主人公はパターソンという男性。そして彼が住む場所も、その名も「パターソン」という小さな町である。

そのライフスタイルが素敵。バス運転手をしながら密かに詩作を続け誰にも見せないノートに書き記している。日常のなんでもないものごとを詩の言葉に置き換える姿はどこか日本の俳句の感覚を思わせる。モノづくりが趣味の恋人と二人、静かな暮らしを楽しむ日々なのだ。恋人がパターソンに詩集を出すことを促したりもするのだが、本人はその気はないらしい。第三者の関心や評価には無頓着なその生き方が淡々と描かれていて、それがこの映画の底にながれている静かな空気を生み出している。

ドラマとしては大したことは何も起きないのだけれど、その安らかで静謐な世界にずっと身を浸しておきたくなる。ぼんやりと川縁で水の流れを眺めているような心持ちになる映画なのだ。

2〜3年前、この映画を観たとき、自分もそろそろこんな静かな世界に入りたいなと思いつつ、きっかけを探していた。

そして、なんとコロナと自分の病気があたかも申し合わせたかのように、僕の肩をポンと叩き「さあ、次のドアを開いていいよ」と囁いてくれたような気がした。

どこかで読んだ「悪魔と天使は手をつないでやってくる」という言葉を思い出し、それを僕の潜在意識は待ち望んでいたのかもしれないと思った。

そしていま、僕は東京の“パターソン”に住んでいる。人知れず、近くの公園の林をぶらつき、夕焼け空を見上げ、アトリエでは好きな音楽を小さな音で流し、書きたい文書を書いている。

▲自粛生活で公園には子どもたちがのびのび遊ぶ姿が見られた。(代々木公園にて)

僕にとっては、コロナは恐怖心以上に、心に平和をもたらしてくれている。元々人付き合いが少ない暮らしだったが、コロナが社会との関わりを最小限にそぎ落としてくれたからだ。他者の眼差しや思惑から遠く離れることがこんなにも穏やかさを生み出すとは……。

そこであらためて気づくのは、この社会はことさらに感情や欲求を満たすことを促し、じつは人々はそのことにどこか疲れていたのではないだろうか。

多くの人が自分の願望を満たすために、仕事、家庭、消費のさまざまな場面でエネルギーを使い果たし、またそれを煽ってきたのがこれまでの社会なのだろう。でもそんな時代の終わりの始まりのスイッチをコロナが押してくれたように感じるのは僕だけだろうか。

それにしても、現代社会において強調される“自分を生きる”ことへのこだわりはどこからくるのだろう。

それは、自分らしくしていられない環境に抗う中で、反動として生まれてくる欲求なのかもしれない。そして、自分らしさを圧迫する最たるプレッシャーは現代の複雑になりすぎた人間関係なのかもしれない。だとするならコロナ感染を避けるための物理的なディスタンスは人間関係における心理的なディスタンスをも広げてくれそうだ。

コロナ以前に比べると繁華街は別として、街は少し静かになっている。生産活動も緩くなり、心なしか空もきれいだ。実際、IEA国際エネルギー機関は2020年の二酸化炭素排出量は前年比8パーセント減少という見通しを立てている。なんとインドや中国では青空が見える日が増えたという。

メディアでは経済の減速を不安視する声も大きい。でも、GDP(国内総生産)だけを豊かさの指標にしていた時代はバブル崩壊と共に終焉を告げていたはずだ。

僕はいま澄んだ空や静かでゆったりとした時間を味わうという“豊かさ”をしみじみと噛み締めたいと思う。

▲末永近影

末永 蒼生(すえなが たみお)
色彩心理研究家/「色彩学校」「国際アートセラピー色彩心理協会」代表理事

1960年代から実験的な美術活動を行い、近年、当時の記録映画が内外の美術館で上映されている。64年より日本児童画研究会で色彩心理の研究を行い、66年「子どものアトリエ・アートランド」を創立、89年に「色彩学校」を開設。色彩心理とアートセラピーを組み合わせた「末永ハート&カラー・メソッド」を体系化。多摩美術大学非常勤講師をはじめ、内外の大学で講義を担当。東日本大震災など各地の被災地でアートセラピーの活動を支援。NHK「課外授業ようこそ先輩」などテレビ出演や講演活動も多い。著書にロングセラーとなった『色彩自由自在』シリーズ(晶文社)『心の病気にならない色彩セラピー』(PHP)など多数。

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