【ドイツより】~Part2~

最近、オンラインで絵を見て話す「対話型鑑賞会」を始めました

ヒンツェ祐紀さん(ドイツ在住/ 「色彩学校」認定 色彩心理講師)

自粛生活の中でのアートセラピー活動

2月末の一時帰国で予定していた親子向けの小さなワークショップは、感染の不安が拭いきれず今夏に延期しました。定期的に開催していたアトリエやワークショップは、3月下旬以降、安心して参加してもらえる状況が整うまで対面での開催を見送っています。

延期の判断は、共催の方や参加者と相談したり、「国際アートセラピー色彩心理協会」で共有してくださった対応も参考にしたりしました。相談する相手がいるというのは心強かったです。6月に開講を目指していた「提携クラス」も延期し、今秋ごろオンラインでの開催を模索しています。

▲コロナ前のアトリエ風景と子どもたち

ぬり絵ワークショップはオンラインでの開催を決めましたが、まずは対象を対面でのぬり絵を体験したことのある人の知り合いまでにしました。ご存知のように、色彩表現をすることで思わぬ感情が溢れ出てくることもあり、コロナ禍という未知の状況下で、オンラインで初対面の方をどこまでフォローできるかという点で不安が残ったからです。今後やり方を工夫しながら、少しずつ対象を広げていきたいと思っています。

ドイツと日本をつなぐ、子どものアトリエの新しい試み

子どものアトリエは、こういう不安な時だからこそ表現することが力になるという思いがあり、開催できないことはとても残念でした。 

そこで、これまでのような表現の場をつくれないのなら、それ以外の部分で何ができるのか、しばらく対面では開催できないと想定し、オンラインで開催することを前提に、まずは活動で大事にしていることを取り出してみることにしました。その中で見えてきたのが、「自分の感覚をよりどころにしてものを見たり考えたりすること」と、「多様な価値観やものの味方を知ること」のふたつでした。

 次に、このふたつを実現できてなおかつ、わたしだからできることは何かと考えました。コロナ禍で学校や幼稚園が休みなったことで、本当に多くの人たちが素晴らしアイデアを出しあっていましたので、わたしだからできることをした方が意味があるような気がしたし、なによりおもしろそうだと思ったからです。

そしてやることになったのが、オンラインで絵をみて話す「対話型鑑賞会」です。背景知識なしに画家の絵をいっしょにみて、気づいたことや発見したこと、そして、そこから考えたり感じたりしたことを話します。絵をみて語ることはアトリエでやってきましたし、美術館で対話型鑑賞の協力員をしていた経験も活かせると思いました。

ドイツと日本に住む子どもたちを繋いで、試行錯誤しながらこれまで10回ほど開催しました。子どもたちは、「今日はどんな絵をみるの?」「ドイツはいま何時?」など、絵をみることや遠くにいる友だちに会えることを楽しみにしてくれているようです。「次は僕の絵をみよう」と提案してくれたり、鑑賞会の後に絵を描いた子や即興で歌をつくったりした子もいました。ふだんのアトリエと形は違いますが、心が循環したという点ではある意味アートセラピーと言えるのかも知れません。

ぬり絵をすることで不安を可視化

4月11日 に塗ったぬり絵表現。
目に見えない不安が自分の領域に侵入してくる心地悪さを感じる。

生活が変わりストレスにさらされているのは間違いないのですが、引きこもり生活は心地よく、仕事も楽しかったので、自分の心身の状態につかみどころのなさを感じていました。スーパーで突然声を荒げた人のように、わたしも突然怒りや不安がこみあげてくるんじゃないかと不安になることもありました。

そんな時ぬり絵をすることで、このつかみどころのなさを可視化でき、不安を感じていることそのものを受け止めることができました。色彩表現することそのものの気持ち良さも改めて感じましたし、言語化してみることで、心の霧が晴れてすっと光が差し込むようなすっきり感がありました。

アートってなんだろう、わたしに何ができるんだろうといつも考えています。

ひとつわかっていることは、わたしを含めだれもが幸せな人生を送りたいと願っていることです。

今回の未知のウィルスによって世界の様子が一変し、人間は自然の一部だということや、未来は予測不可能で不確実だということを感じました。また、多くの人たちによって日常が支えられていることにも気づかされました。 

そういう世界であリながら、社会の分断や不寛容が取り沙汰されています。そして、わたしの中にも異質なものを煩わしく感じる自分が潜んでいます。異文化の環境から距離を置き、自宅に引きこもってストレスフリーだったのがいい例です。でも、人は一人では生きていけない……、なんて面倒くさい生き物なんでしょう(笑)。

アートは自分自身の、そして人々の多様性を教えてくれる

多様性を受け入れるというのは、実際は言葉で言うほど簡単なことではありません。だからこそ、社会の分断や不寛容ということがおこっているのだと思います。 

わたしは、まずは多様性を実感することが、幸せへの第一歩なのではないかと思っています。アートは、自分自身のさまざまな側面や、人が見ている世界は本当に多様であることを教えてくれますし、自分のなかの常識や価値観に揺さぶりをかけ、その外側にあるまったく新しいものを見出すことができます。そういう意味でアートは、幸せの鍵になるのかもしれません。

また、色彩表現のように自ら描くという行為は、自分の感覚を拠り所にして、物事を見たり考えたりする力が自ずと磨かれます。ですから、答えがすぐには見つからず、不確実で宙ぶらりんな現在のような状況において、人の心を支え、新しい未来をつくる力になると思います。

今後は、「自分の感覚」や「多様性」を軸にアートとの関わり方を提案し、活動を通して出会う人たちといっしょに幸せを模索していきたいです。

ヒンツェさんの作品。2月中旬に作成した絵本

そして、現在……

最後に現在の様子ですが、だいぶ規制が緩和され、学校や美術館も再開し、庭でバーベキューをする人や子どもたちが外で遊ぶ姿も戻ってきました。規制が始まった頃、雲がひとつだけ浮かんだ空のもと、人っ子一人いない、まるで映画のセットような場面に、町なかで出くわしました。時が止まったような不思議な景色でした。その場面から、いままたカチンコの音とともに時が動き出したようなそんな感じがしています。

6月8日「接触禁止措置」が緩和された後。

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