「子どものアトリエ・アートランド」宇佐田典子
子どもたちが無彩色を好む時期は、どのような心理状態や成長発段階にいるのでしょうか。私たち大人はどうなのでしょうか? 今回は、モノトーンの中でもとくに墨の表現に着目してみたいと思います。
心を落ち着かせてくれる墨の香り
コロナ禍が広がりはじめ1年がたとうとしています。緊急事態宣言が発令された最中、街中の彩りがなくなったように感じている方もいるかもしれません。周りを見渡す当人の心がモノトーンだとそのように感じるという事もあるでしょう。
それでも私はモノトーンが好きです。それは身に付けるものという事だけでなく、墨で描いた「墨絵」や「書」のもつ静寂さ、落ち着きといった私自身のモノトーンのイメージからくるものかもしれません。
色鮮やかな物ばかり見ていると、圧倒されて時に落ち着かなくなることがあります。
そんな時には、「墨絵」や「書」の画集をみたり、自ら筆やペンをとり黒1色で絵を描いたり、文字を書いたりします。私は子どもの頃に書道を習っていたので、懐かしい墨の香りも記憶の中から呼び起こされ、いつの間にか穏やかな気持ち、まさに“静寂”という言葉があうような気分になります。
墨絵をきっかけにモノトーンの世界を表現し始めたS君
「子どものアトリエ・アートランド」ではコロナ禍になりしばらくは「オンラインでのアトリエ」に切り替えましたが、現在は対面とオンライン、どちらかを選べるようになっています。
オンラインアトリエを始めた当初は、私達も子ども達も馴染めず、模索をしながらでした。それでも、こんな時こそアートで心の安定を保てるようにと何とか続けてきました。中には、じっとしていられなくてオンライン画面からいなくなる子がいたり、早々に飽きてしまう子や家だと創作意欲が湧かないという子などいました。
そんなある日、オンラインアトリエを続けているS君(9才)が「森の風景」という墨絵を描いたのです。それは学校で書道の授業があったことがきっかけだったようですが、きっと墨を筆につけた瞬間にしっくりきたのでしょう。学校に行っても今まで通りとはいかず消毒、検温、ソーシャルディスタンスと何だか慌ただしく緊張感も漂っていた中、S君も私と同じように「墨絵」を描くことで心が落ち着くという感覚を味わっているのではないかなと思えました。
▲S君が描いた墨絵「森の風景」
風景は少し離れた位置から見ているような構図で、今の世の中の状況を冷静に見極めているのかもしれないと思わせる作品です。「オンラインアトリエ」では自分の世界にどっぷり浸れるようで集中力もさらにUPしたように感じられます。
少し前からポケモンのキャラクターの写し絵をし始め、色を付けたりもしていたのですが、最近になり突然モノトーンの世界に突入。次に鉛筆で書き上げたのが、「鳥獣戯画」の模写でした。複雑な細部まで丁寧に模写しています。モチーフ選びが大人っぽさを感じさせたので、お母様にお話しを伺ったところ、「そういえば前はニュースを見ていても、これはどういう事? という質問が多かったけれど、最近はこの事はおかしいなど自分の意見を言うようになった」のだそうです。
成長を感じます!
▲S君が模写した『鳥獣戯画』。上は「獅子」、下は「青龍」を鉛筆で描いた作品。
奥深い「書」の世界
墨で書いた書は、「文字」の力も感じさせてくれます。筆の太さ、墨の濃淡、書く順番により趣も変わってくる、非常に奥深く、見る人にインパクトを与えてくれます。昨年、コロナ禍ではあったけれど、そんな作品をてがける書家・栗原針山の個展に何度も足を運びました。
彼の作品は、文字という概念を超えたアート作品でメッセージ性が強い。「日常であっても 非日常であっても 生の灯を 直視しながら 足元を見失うことなく 歩んでいきたい」という彼の言葉通り、どんな状況であっても惑わされず、自分の目で見極め希望を見出していこうとする生き方、モノトーンの静寂な世界の中の強い意志が伝わってくる作品の数々でした。
このメッセージは私達が伝えたいと願うアートセラピーとも通じるものがありますね。まだまだ世の中の状況がどう変わっていくか不透明で不安は大きい。けれどそんな時に、あえてモノトーンの世界に入ってみるのもおすすめです。
書:栗原 針山
「今日を生ききる」~1日~
「一」を縦にしてそこを日が三次元的に登っていく形にすることで今日1日を生ききる姿を表現。今日という日をどれだけ実感をもって生きることができるのだろうか
書:栗原 針山
「揺らめく命の確かなる燃焼」~炎~
儚くも強い煌めきを胸に精一杯生きる
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宇佐田 典子(うさだ のりこ)
「色彩学校」上級認定チャイルドアートカウンセラー/「色彩学校」専任講師
「子どものアトリエ・アートランド」青山・本部アトリエでチャイルドアートカウンセラーとして15年活動をする他、自宅でもアトリエ「うさまる」を主宰している。地元練馬で小さな子どものための「おやこアトリエ」活動もしながら、親御さんや子どもたちの心に寄り添う子育て支援を行っている。保育士経験11年あり。