このぬり絵が生まれた背景

セミナーを振り返って

「色彩学校」プロデューサー 江崎泰子

まずはテーマや目的を考えるところから

協会員が創ったオリジナルぬり絵、いかがでしたか?
これらは、6月20日から計3回で行った「創ってみよう、MYオリジナルぬり絵」のセミナーの中で創作されたものです。
皆さん、最初は「こんなぬり絵があったらいいな~」という漠然としたイメージでスタートされましたが、このセミナーで創るのは市販のぬり絵とは違って、あくまでもメンタルケアに役立つセラピーぬり絵。そのためにまず各自ぬり絵のテーマや目的を考えることが大事というところから始めました。

次に、そのテーマを表現するのに適したモチーフは何かを探り、構図や線の太さ、余白などといったぬり絵を構成する要素についても深めていきました。

▲ 実際にお互いの試作品をぬってみた表現

そうして2回目ではそれぞれ試作品の絵柄を描き、それを別の参加者に実際にぬってもらって、シェアを行うところまで実践しました。じつはこうした使い方も、市販のぬり絵との大きな違い。セラピーぬり絵は、他の人も表現してもらうことで対話が生まれるコミュニケーションツールでもあるのです。

このシェア体験を通してお互いに率直な感想を交換し、自作の改善点などが明確になっていきました。中でも、皆さんが難しいと感じられていたのが、ぬり絵につけるタイトルとサジェスチョン。
人は、言葉ひとつで引き出されるイメージが違ってきたりします。作者の言葉が過ぎると自由な表現を妨げることになりかねないし、かといって伝え足りないと何を表現していいのかわからないという結果に。だからこそ、簡潔で適切で、できれば美しい言葉を投げかけることが、ぬる人のイメージの扉を開きクリエイティブな感覚を刺激してくれるのです。

そんなプロセスを経て3回目に完成したのが、今回公開した参加者の方々のオリジナル作品です。

ぬり絵を使う人の視点に立つことで、作品も自分も磨かれる

皆さん、創ってみての感想として述べられていたのが、今回のぬり絵は、結局、自分自身が向き合い表現したかったこと……例えば、コロナ禍での鬱積した気持ちや心のバランス、自分にとって大事なことやこれからのイメージ……など、個々人の心の状態が反映されたテーマだったのだということ。
とは言え、それを他の人にも役立つ作品にするためにブラッシュアップしていく過程は、自分目線からより広い視野へと視点が変わる体験でもあったと振り返られていました。

【セミナー参加者のコメント】


No.5「シュレッダー」の作者
水谷咲知子さん

絵は苦手なので自分にできるんだろうかと、セミナーに参加するかどうか迷ったのですが、最初の回で「絵が上手じゃなくても自分のぬり絵は作れる」と伺い、励まされました。またいろいろな工夫を教えてもらい、仕上げることができました。
今回は「シュレッダー」がテーマでしたが、このモチーフを思いついたのは、私はいつも頭の中がごちゃごちゃしているので、もっとすっきりしたいなあと感じていたからかもしれません。セミナーとしては、「他の人にも使ってもらえるぬり絵を創る」が目的でしたが、結局は自分がいちばん求めていたものになったのかもしれませんね。


No.17「時間の旅人」の作者
金子武志さん

ぬり絵は、勤務しているデザイン専門学校などの教育現場やワークショップなどで使っていて、とても面白いツールだと着目していました。また、私の母が認知症なんですが、ぬり絵をもっていくと、作品がどんどんたまっていくくらい熱心にぬっていて、「ああきっと楽しいんだろうな」と、いろんな使い方ができるぬり絵の奥深さを感じていたところです。
ですので、「自分のオリジナルぬり絵を作る」というセミナーの企画に刺激を受け、すぐに申し込みました。
最初は、もっとアート的で純粋に表現を楽しむようなぬり絵を創ろうと思っていたのですが、やはりハート&カラーぬり絵の原点に還って、「自分を深められる」絵柄にしようと考えました。「時間の旅人」のタイトルどおり、時間を越えて自分の過去、現在、未来を自由に行き来し、表現できたらいいなと思っています。
私自身は、これまでと同じ教育現場や自分が主宰するワークショップなどの他、社会人向けキャリア研修や、子育て支援など幅広い対象に使っていきたいです。でも、その前に家族やとくにパートナーともやってみたいですね。


No.11「やめて!」の作者
守田治子さん

自分でぬり絵を作ってみて、ハート&カラーのぬり絵がどれだけ精査されて創られているか、実感しました。シンプルで簡単な絵柄なようでいて、じつは構図や余白、サジェスチョンの言葉選びに至るまで、考え抜いて創ることを教えてもらった気がします。
また参加者の皆さんのぬり絵は、どれもそれぞれの心理状態や思いが凝縮している感じで、それが伝わってくるからこそ、どれも「ぬってみたい」と思わせるものでした。
私自身は、NOと言えない人やつい周囲に合わせてしまい怒りが出せないといった人に共感を覚えるので、そういう人が気軽に感情表現できるような、ライトでソフトな絵柄を目指しました。アートセラピーの導入として活用していきたいです。                                                               


No.25「体の声」の作者
中島太味子さん

心のほうはこれまで「色彩学校」でいろいろと探求することができたのですが、私くらいの年齢になると、体のあちこちに不調が生じてそちらが気になるようになります。
なので今回は、色を通して体を感じて見られるような絵柄を作ってみました。使い方としては、同年代の友人との間でやってみたいのですが、まずは私自身が毎日描いて自分のコンディションや色と健康の関係について探ってみたいと思っています。
それにしても今回のセミナーでは、多くのことを感じさせてもらいました。まず、それぞれの方のぬり絵のアイデアに、ご自身の問題や意識が反映されていることに皆さんが気づかれたのがすごいなと思いました。また、単にこの作品を自分のためだけでなく他の方にも使ってもらえるレベルにまで磨いていくプロセスで、意識が変わっていくというか、各人が先に進んでいくような感じがあり、それにも感動しました。
やはり表現すること、そこから生み出される力ってすごいなって、改めて実感しました。

今回のセミナーをきっかけに、これからもまた続々と協会員の中から素敵なぬり絵が生まれることを、楽しみにしています。

【協会員が創った新作ぬり絵「オンライン展覧会」】の記事はこちら