小澤三月さん(神奈川県/デザイナー/「色彩学校」認定アート療法士・中級認定 色彩心理カウンセラー)
トートバッグ専門ブランドROOTOTE(ルートート)デザイナーの小澤三月さんは、昨年「色彩学校」の「中級・個人カウンセリングプログラム」を修了しました。そして、今年2023年8月、末永メソッドの色彩心理を応用して小澤さんがデザインした「2WAYトート airo」(2WAYトート=背負えるトート)が店頭に並びました。今回は、商品化までのプロセスや今後の抱負などについてお話しを伺いました。
小澤さんのデザインへのこだわり
小澤 現在は、トートバッグ専門ブランドROOTOTEの商品企画室でトートバッグの企画デザインをしています。
これまでも、日常のちょっとした不満や違和感を解決するようなプロダクト、好きを応援するようなプロダクトを提案してきました。
例えば、「CASA」という商品は、雨の日に持ち運ぶ濡れた傘の問題を解決するアイテムです。身の回りを濡らさないし、両手が空くので快適に過ごせる、移動もスムーズに行えます。廃棄されるビニール袋の削減にもつながります。
「FURbuscket」は、私の飼っている猫、三毛とハチワレのカラーとふわふわの触りごごちを表現した、大人の女性に使っていただきたいトートです。外出先でも愛猫を感じられる偏愛アイテムです。
▲心地のよい傘のおうち(傘専用トート)「CASA」
▲愛猫とのスキンシップからうまれたトート「FURbuscket」
「色彩学校」との出会い
小澤 転職して2年経った頃、パンデミックがおこり、生活スタイルが変化しました。鎌倉に引っ越してからは一年が経っていました。
テレワークが始まり、今までとは異なる時間が流れ始めます。この頃、自分自身について深く問いかけることが多くなりました。自分の天職とは何か? 自分のデザイナーとしての特徴は何か? 自分らしい生き方とは何か?
そんな中、子どもの頃から今まで、私の中でインスピレーションを与えてくれるのは色彩だと気がついた時、もう一度学び直したいと考え、図書館で色彩関係の本を読みあさっていました。そこで出会ったのが、末永さんの著書『色の力 色の心理』です。この本はとても面白くて、私の知りたいことをこんな風に表現できる人がいるんだと感動しました。今まで読んだ色彩関係の本の中で一番自分にしっくりくるものでした。
▲『色の力 色の心理』
(末永蒼生著・大和書房)
その後、「色彩学校」の「総合アート療法士養成コース」を受講しはじめます。
美大時代に色彩学と出会い、その後、社会人になってから、A・F・Tの一級色彩コーディネーター、カラーデザイナーの資格を取りましたが、心理学とつながる色彩学について、またアートセラピーについては、「色彩学校」で初めて専門的に学びました。
「色彩学校」では様々な表現ワークを行いますが、社会人になってからは、絵を描くといってもほとんどは自分がデザインするもののアイディアスケッチだけで、その後パソコンで仕上げてしまうため、手を使って色を塗ることや自由に創作するということが本当に久しぶりでした。
自分自身の表現をする、そして、自分自身をありのまま受けとめることが、自分の気持ちに気がついたり、心の中が整えられたり、という精神的な効果につながることを体験しました。色彩心理学とアートセラピーの基礎を学び、その後すぐ、中級の「個人カウンセリングプログラム」へと進みました。
色彩心理カウンセラーが考えた働く女性の声を集めたトート「airo」を商品化
Q それで今回、色彩心理を応用した新しい商品を企画、開発されたのですよね。
小澤 はい、中級を学びながら今回、本格的に色彩心理を活用した「2WAYトート airo」という製品を企画、商品化しました。「airo(アイロ)=I(私)の色」という意味です。
様々な職種の働く女性30人、おひとりおひとりと向かい合い、カラーワークのセッションと、ライフスタイルやバッグ・荷物に関するインタビューを行い、商品開発に取り入れました。また、店頭で販売するスタッフさんたちに向けては、商品理解を深めていただくためにカラーワークショップを対面やオンラインで行いました。
「2WAYトートairo」は、コロナ禍でテレワークなど多様な働き方が増え、パソコンを持ち運ぶことで荷物が重くなり、ストレスを感じた女性のバッグの買い替えに提案する予定の企画でした。
開発を進めていく中で、ターゲットを絞り込み、売れている商品のスペックなどを参考に、マーケットにあわせてデザインしていくといった従来通りの考え方だけの企画では、私自身の気持ちが納得できない状態がしばらく続きました。当初予定していた展示会への出品は2回ほど見送ることになり、また、経営者からも、本当にこのままで良いのか?という問いを常にかけられていました。
すでに市場にたくさんある働く女性に向けたトートバッグを、どうしたら他社と差別化できて優位性のある商品として完成させられるのか、デザイナーとして、迷い、考え、試行錯誤していました。
商品化するにあたって、開いたワークショップ
Q それで、利用者の感覚を直接知るために、ワークショップなどを行ったのですね。
ちょうど「色彩学校」の「中級・個人カウンセリングプログラム」を受講していた頃でしたが、実際のターゲットである働く女性にインタビューを行うことになり、同時に働く女性の色彩心理をトートバッグに取り入れるために、カラーワークを取り入れてみることにしました。色彩設計について、デザイナーの好みや感性・知識だけではなく、使っていただく方の心に働きかけるようなもっと深いものを提案したいと思いました。
また、アートセラピーやカウンセリングについても学んだことで、自分を自由に表現できる場づくりや、色彩表現によって露出してくる内面的なものを捉えることが、私自身と社会とをつなぐコミュニケーションの場においてデザインをさらに発展させていくことになりました。これは、末永さん江崎さんが取り組んでこられた「参加型共同デザイン※」という言葉を当てはめるとしっくりきます。
※「参加型共同デザイン」とは……
従来のデザインの手法は、デザイナーがそのセンスや個性を中心にすることが多いが、それに対して「参加型共同デザイン」は、商品を使うユーザーもデザインに参加する手法。ユーザー参加のワークショップを開き、そこで色彩や形を表現してもらい、それらを活かしながらイメージを生み出していく方法。(株)ハート&カラーが色彩心理を活かして試みているユーザー参加型のデザインワーク。
小澤 対面で行ったカラーワークでは、オリジナルのワークシートを作成し、「仕事」「ストレス」「好きなこと・才能」「癒し・リラックス」という4つのキーワードに対して、イメージする色と言葉を表現していただきました。
キーワードごとの傾向をまとめるとこのようになります。
「仕事」のイメージで多かった色は青、赤、黄です。青は責任感や正確、冷静、赤は情熱ややりがい、黄色は楽しい、自己実現などのキーワードが上がりました。
「ストレス」のイメージは無彩色と赤、紫の色相に集中しました。赤と無彩色を組み合わせて表現する方もいらっしゃいました。黒は、仕事や重い、落ち込み、赤はイライラ、疲労、痛み、紫は矛盾といったキーワードが上がりました。
「好きなこと・才能」のイメージは高〜中明度の暖色と青が多かったです。ピンクや橙は、ハッピー、優しい、楽しいなど。黄は、楽しい、キラキラ、進む、青は落ち着く、無限、可能性といったキーワードが出てきました。
「癒し・リラックス」は、高明度の暖色と黄緑〜青の色相に集中しました。これは、ストレスとはほぼ反対の色の現れ方です。集中した黄緑〜緑は、解放、広がり、のんびり、自然、爽やかなど。青は、海、風、水、外など。緑と青の配色の方もいらっしゃいました。明るい暖色はホッとする、暖かい、などのイメージです。
色決めのポイントや商品の特徴
小澤 働く女性に行ったカラーワークの結果を参考にしながら、私が提案したいカラーを検討していきました。
まず、働く女性がストレスに感じる色や配色は極力使わないようにしました。そして、ポジティブなイメージを感じる色、1日仕事をする中で気持ちの変化に寄り添えるような色を組み合わせていきました。
Q それで、バッグの中と外の色を変えるという工夫をした商品ができたのですね。
小澤 働くシーンで求められるバッグのカラーはベーシックなものが中心なので、外側はファッションに合わせやすく取り入れやすいベーシックカラー、内側は働く女性の気持ちを後押しするようなカラーを入れました。私のこだわりとして、内側は元気の出るようなブライトカラーと優しさのあるパステルカラーを2色使っています。
朝会社に行く時、プレゼンや商談の時などは、モチベーションが上がり元気が出るようなカラー、仕事帰りや疲れている時などは優しい穏やかなカラーが心に響くのではないでしょうか。好きなカラーや気になるカラーを生活に取り入れることも楽しいですし、色の意味から手に取ってみるという選び方も新しい発見があるかもしれません。身の回りのアイテムも自分と関係していると感じる色を選ぶことで、毎日を少し豊かに自分らしく過ごしていただけたら嬉しいです。
そうして私自身、開発のスタートから一年以上サンプルを使い、修正をするということを繰り返し続けてきました。
2023年4月の自社展示会で発表したところ、結果として一番注文がついた商品になり、8月に発売することになりました。発売後、店頭での動きも良いようで、2024年の3月に新色と同シリーズで新商品も発売することになっています。予想外に10代〜80代と幅広い年齢の方に手に取っていただけています。女性はもちろん男性も、親子や夫婦でシェアしたいと購入して行かれる方や、色違いで購入されて行かれる方もいらっしゃいます。また、ギフトとしても喜ばれているそうです。
人の心に響くようなデザイン
Q 小澤さん自身として今後、やっていきたいことを教えてください。
小澤 今振り返ってみると、私が悩んでいた時期の背景には、売上や商品スペック、スケジュールという機械的な数字の存在がありました。この数字だけに一喜一憂している自分のデザインに自信が持てていなかったのだと感じます。インタビューやカラーワークショップなどを通して、人と対話し顔が見えてくると、私自身は数字だけではなく、やはり人の心に響くようなデザインがしたかったのだなあとあらためて納得できます。
私の行ったカラーワークショップに参加していただいた方からは、面白い、楽しい、スッキリした、またやりたいといったメッセージをいただいています。気持ちの変化があったり、ライフスタイルの転機を迎えた方もいらっしゃいました。
今回、色彩を通じて、自分以外の世界(他者)とコミュニケーションをとることが私のデザインを構築していく大きな要素となりました。
今後も、末永さん江崎さんが行ってきた「参加型共同デザイン」に引き続き挑戦してみたいなと思っています。具体的には、異業種とのコラボレーションでカラーワークショップを行い、ここから商品のデザインを生み出していくこと。日本の伝統工芸とのコラボレーションや、アーティストとのコラボレーションにも挑戦していきたいです。また、自分の住んでいる鎌倉にも愛着を持っているので、ローカルに関わる活動も行っていきたいと思っています。
■小澤さんのインタビューは動画でもご覧いただけます▶▶▶
■小澤さんがデザインした「2WAYトート airo(アイロ)」のページ▶▶▶
■「2WAYトート airo」の企画で小澤さんが末永蒼生に行ったインタビュー記事
「色彩心理学の魅力とは? 50年以上にわたって研究されてきた末永蒼生さんにインタビュー」▶▶▶