末永蒼生の“クレヨン先生”通信〈親と子のための色彩心理入門〉画材シリーズvol.2「水彩絵の具」

「子どものアトリエ」には様々な画材が用意してありますが、それには子どもの発達を促す理由があります。色彩シリーズと併せて、画材についてのエピソードもお届けしたいと思います。きっとお子さんの作品を眺めるときにいろんな発見をしていただけると思います。

【画材シリーズvol.2】

今回はアトリエ教室でも人気の画材「水彩絵の具」です。
水彩絵の具は、2〜3歳の幼児から10代までそのときどきの心の成長が反映される画材です。今回は特にご質問が多い幼児期の水彩絵の具の表現についてご紹介していきます。
その効用とはいったいどのようなものでしょうか?

水彩絵の具を使う体験が促す心の成長

子どもに水彩絵の具を与え自由に使わせてみると、その使い方や楽しみ方によって子どもの発達の流れが見えてくるものです。これは長年の子どものアトリエ・アートランド代表である末永(すえなが)の観察と研究によって分かってきた興味深いことなのですが、もちろんそれも個人差はあります。それでも水彩絵の具の楽しみ方から、その子の感性や興味がどの段階にあるのかなんとなく分かってきます。それが感じられると、「なぜこんな表現をするのだろう?」ということが分かり、安心して子どもを眺めていられるかもしれせん。

幼児期にとって大切な皮膚感覚や五感の刺激を味わう

幼児であれば、筆を使って形を描くというよりまず色を混ぜ合わせてみたり指絵を試したり、水彩の材料の感触や素材としての面白さを試そうとするものです。これは水彩絵の具に限らず、粘土やクレヨンなど他の画材でも子どもはまず触ってみたがるものです。そしてそのことが、幼児がどのようにして物事を理解していくのかということを示しています。まず触る!これが幼児の理解の一歩なのです。というのも五感の中で最初に発揮されるのが「触感」だからでしょうね。

このことを理解しておくと、子どもが水彩絵の具や粘土などを好む理由が分かります。つまり、触感を発達させる段階にある幼児は本能的に“目についたものには触れたい”という自然の欲求満開の状態です。そしてその欲求と行動が触感をさらに発達させていくのだと思います。水彩絵の具や粘土、スライムなどに熱中するのもそのためです。子どもは水遊びも好きですね。それによって触感も刺激されますし、心理的にもご機嫌になります。

自分のお子さんがやたら水彩の手遊びや粘土いじり、時に水遊びに夢中になりそればかり続けていると、ちゃんと発達しているのかと気になりこともあるでしょう。でも、子どもの本能は決して間違ったことはしないものです。心ゆくまでやり卒業すると、次の段階に進むものです。とは言っても、小学生くらいになるとそのような水彩絵の具の手遊びはしなくなるかというと、そんなことはありません。この触感欲求はいくつになっても繰り返しよみがえることがあります。実はこれが大切なことなのです。なぜなら、触感を満たすことが精神的な安定や落ち着き、集中力を養うことを子どもは無意識に覚えていて必要な時には本能的にその経験を再び蘇らせながらパーソナリティーのバランスをとる力を持っているのです。

*Hくん 3才*
手も足も絵の具まみれになりながらキャンバスに彩色し、爪でひっかき描いた。幼児期は五感を刺激し触感を満足に味わうことで心のバランスを保ちそのことが創造力を高める。

水彩絵の具が与えるタッチングの効果と描画能力

ぐちゃぐちゃ水彩遊びが大好きな幼児期は皮膚からの刺激=タッチングを味わうことで、安心感を感じ同時にストレスを解消しているようです。そういう意味では心身両面の健康にも役立つのかもしれません。
この触感体験で得られることは他にもあります。思いのままに水彩で手遊びをした子どもは水彩絵の具特有の材質を理解していくので、いざ形ある絵を描くときにその材質感を巧みに活かし、筆さばきも見事に仕上げたりするものです。

触覚と視覚を自然に育ててくれる色水遊び

先日、新しくアトリエに入会したお子さんのエピソードです。その日は顔に色水が飛び散っても気にすることなく、最後まで夢中になって色水を堪能しました。お母さまは驚きと共に普段できない体験に喜ばれていました。それにしても、子どもたちはどうしてあんなにも色水作りに夢中になるのでしょうか。色水遊びは五感のうちの触覚と視覚の両方に同時に刺激を与えてくれますね。触覚の刺激ということは先述しましたが、一方、色の方は視覚を通って情緒や感情に作用していきます。そういう点では、色の刺激は喜怒哀楽の感情が豊かに育つ幼児期には意味がありそうです。

小さな子どもたちは「すき」「きらい」といった感情がはっきりしています。そういう場合、お子さんたちは赤や黄色、青といった原色をよく好む傾向にあります。生まれてから感情を1つずつ覚えていくようにまずは色もはっきりした色から1色ずつ使っていくのかもしれません。

やがて、体験や経験を重ねていくうちにピンクや紫といった混ぜ合わせた中間色を手に取るようになり色のバリエーションを広げていくようです。例えば、”青と黄色を混ぜると緑になる”とか”赤と青を混色して紫色”になる面白さを発見します。もしかしたら、それは1つずつ覚えた感情と感情を混ぜ合わせていき、「すきだけどきらい」「やりたくないけどやる」といった複雑な感情が育まれていく心理的な発達を反映しているとしたら子どもの発達はなかなかすごいですね。

アトリエの幼児対象クラスで赤・青・黄の三原色と白、黒の5つの色の絵の具を用意している理由も分かっていただけるかもしれません。そのような時期に色(感情)の根源である三原色から様々な色を作り出す体験を通しながら、豊かな感情を育んでいる子どもたちは素晴らしいと思います。

*3才 Kちゃん*
入会してしばらく色水作りを堪能。その後「●●色と○○色を混ぜると○○色になるんだよ!」と色水作りでインプットした体験を、アウトプット(言葉に)しながら色づくりの実験を繰り返した

水彩絵の具は子育てのサポーター

パレットに色を出すことにも目を輝かせていますが、それを混ぜ色が変わる様子や、水に溶かして色が溶け広がる様子はさらに目を輝かせています。
そこには絵の具に水を混ぜていく心地よさや感触を通して、情緒的な安定をもたらすことと関係があるようです。
最初は丁寧に色水作りを始めると、徐々に容器に移し替えたり、こぼれる様子をじっくり観察しては、やがてこぼれないように工夫しだします。「どこまでやったらどうなるか?」と自ら実験実証を通して自分の感情のリミッターを学んでいるかのようです。

水彩絵の具は子育てのサポーター!と言えるかもしれませんね。アトリエで思いっきり体感してくださいね。

*Hくん 3才*
自分で作った色水をそれぞれ大切にボトルに詰め替える。今ではじょうごを使って上手に移し替えられるようになった。この後「じぶんでもつ!」と大事に抱きかかえて持ち帰る

※アートランドでは有害化学物質等は一切不使用の絵の具だけでなく容器からパッケージに至るまで、身体や環境に優しいものだけで作られている絵の具を使用しています

幼児期以降の子どもたちと水彩絵の具

一通り触感を満喫した幼児期の子どもたちから年齢が上がると、水彩絵の具での表現に変化が生まれてきます。 絵の具と水の配分によって 色の濃淡をコントロールし、 筆を使って色彩が溶け合う美しさを表現できるようになります。このような色が水に溶けていくときのイメージは、それぞれの色が表現している気分や感情も互いに融和したり変化していくことと重なるかもしれません。そんな 体験も、柔軟な感性を育てる ことにつながるでしょう。

*Aちゃん 5才*
19色の中から微妙な色の違い見て考え、自分の気持ちにピッタリな色を選び繊細な虹を表現した

*Rちゃん 小学2年生*
「グラデーション」というタイトルをつけ、微妙な色の変化を味わい繊細なRちゃんの心の様子が感じられる作品

今回ご紹介した「水彩絵の具」の効果も、実際には子どもによってもっと様々です。カウンセラーとお子さんとの関りやお子さん自身の状態なども含めてご紹介していきます。なにより創作した本人にとっての意味が大切です。たとえば、「リラックスできた」「面白い色になった」「綺麗な色になった」などいろんな発見が生まれます。創作から心の動きを自由に想像してみることを楽しんでください。