末永蒼生の“クレヨン先生”通信〈親と子のための色彩心理入門〉色シリーズvol.8「黒」

【色シリーズvol.8】

色を使わない時はどんな気持ち?

カラフルな色使いをしていたお子さんが、ある時期から色を使わなくなり、(ボールペンや黒いマーカー)で絵を描きだすことがあります。そんな時、「地図」や「迷路」や「恐竜の写し絵」といったモチーフが目につきます。
それが続くと「このまま色を使わないのかな…」と、養育者の中にはの世界に入り込むお子さんを心配されることもあります。

色を使わないでばかりという印象になりますが、でもよく考えてみると、「」 も立派な“色彩”なのです。

色彩学の話になりますが、「」は全ての色を混ぜ合わせた色なのです。 ということは、「」にこだわる時の人間心理はじつは様々な感情や思いをそこに込めていると考えることもできるでしょう。
というのも、カラフルな多色の表現では様々な感情が感じられますが、あえて「」という色を使う時には、ものごとをクールに知的な判断をしたりする気分とぴったりなのです。
気持ちはいろいろあるけど、ちょっと落ち着いて過ごしたい時に「」は支えになります。 例えば、それは大人の女性の装いでも を中心にまとめるととてもシックな雰囲気になるのも、想いを秘めた成熟した大人らしさをイメージできるからかもしれません。

*10歳 男子*
好きな恐竜のみごとな形を表現するために黒一色の見事な線画で仕上げた。「黒」は形を正確に表現する時には集中力を高めてくれる。この子は、自分の世界をとても大切にしどの絵もオリジナル作品として仕上げた。後年、アトリエを卒業してからはミュージシャンとして活躍している。

知的モードへのスイッチへON

子どもであっても、 頭脳的な活動に専念している時は「」を好む傾向があります。例えば迷路や地図を自分で考えながら表現したり、好きなマンガやアニメを正確に写したりするときなどです。子どもの脳は緻密で深い思考モードに入り、 それを集中して表現する喜びに浸っているといえます。 このような体験は、 子どもの観察力、思考力、判断力が育つ上で大きな力になりますし、何よりどんなことをやるときでも集中できる回路が自然に身につくレッスンなのです。

」にこだわり始めたら、いよいよ知的思考と集中回路を獲得し始めたのだと考え、思い切りやらせてあげてください。

*年長 男の子*
武器作りに熱中していたKくんですが、年長に進級すると描き出した「お城」の絵。最初は外側から描き始め、回数を重ねるごとに城の内部やキッチンへと視点が変わりますます没頭していった。

*小学1年生 女の子「れベルですゲーム」*
一筋縄ではゴール出来ないゲームを考案。よく考えながら、パターンの違うゲームを何十枚と作成。

高齢者の女性が「黒の表現」で気持ちの働きが前向きになることも

ここでお見せするのは、80代女性の表現です。それまで色を塗ることを楽しんでいましたが、ある時期、筆ペンでぬり絵をみながら絵柄を模写するようになりました。認知症が進んできて、今まで出来ていたことが出来なくなり「頭がぼんやりしている」と言うなど、不安でいっぱいな頃でした。そんな時、絵柄の輪郭を写し、形を捉えることで、ぼんやりしたものがはっきりする感覚を味わえたのかもしれません。時間をかけて描き終えた後はスッキリした笑顔を見せてくれました。
形をしっかり捉えたい時、集中したい時に使いたいのは、いくつになってもなのかもしれませんね。

子どもも緊張や不安を切り替えるときに、自然に黒の美しさを表現することがある

アトリエでクラス移動をした初日に5歳の男の子が描いたのは「黒いウルトラマン」でした。普段は元気に賑やかに創作するSくんですが、この日は初めてのクラス、初めてのお友達と一緒ということもありとても静かだったSくん。黙々と大好きなウルトラマンを(墨汁)で描き始めたのです。戸惑う気持ちや、緊張といった感情が黒色となって吐き出されたのかもしれません。

こんな表現を見ていると、子どもは自分の気持ちを安定させるときにどんな色を使えばいいか、直感的に理解していることが分かります。どんな子どもも、表現を通して心のバランスをとる無意識の力を持っているんですね。

だからこそ、「アートランド」でも子どもたちがその時に使いたい色を思いっきり自由に使えることを大切にしています。子どもにも大人にも、どんな時でも使ってはいけない色はないということでしょう。皆さんも好きな時に好きな色を思いっきり楽しんでくださいね。

*5歳 男の子「大好きなウルトラマン」*
集中して描いた後はいつものように元気に賑やかに創作を楽しみました。

※今回ご紹介し黒色の例は色彩心理の調査に基づいた要素と、カウンセラーとお子さんとの関りやお子さん自身の状態なども含めてご紹介しています。なにより選んだ本人にとっての意味が大切なので、色から心の動きを自由に想像してみることを楽しんでください。