末永蒼生の“クレヨン先生”通信〈親と子のための色彩心理入門〉色シリーズvol.9「白」

粘土創作が好きで白い粘土で遊んだり、絵を描いてもあまり色を使わないという5才のお子さん。親御さんが「色をぬったら?」と声をかけるそうですが、興味を示さず、「色彩感覚が育っていないのでは?」「色の名前を教えたりした方がいいのかな?」と心配されていました。

このような「色を使わない」あるいは「偏った色しか使わない」という心配はよく耳にします。子どもたちには一体どんな気持ちが芽生えているのでしょうか。

「白」へのこだわりは幼児的な感情モードから思考モードへ

子どもが秘めている絵を描く力にはいろんな種類があり、その発達は一人一人違います。この違いは、子ども一人一人の脳の神経回路の成長の順番が違うからです。つまり興味の優先順位が違うと言ったらいいでしょうか。たとえば、半年くらい粘土創作に熱中していた子どもが、ある日、突然素晴らしい色使いの絵を描いたりします。粘土の感触が刺激になり、連動して色彩感覚が目覚めたりすることもあるのです。
ですから、「色を使わない」「形にならない」という時期があっても心配ありません。
むしろ、色を使わない時期には物事の形態について観察していたり、粘土などの触感が育つ時期だったりします。


色彩心理の考え方からいいますと、色を使わず「」にこだわる時は、幼児的な感情モードから思考モードへと進む場合もあります。成長の節目だと思って見守ってみましょう。幼稚園や学校の美術で教えられる模範的な色使いは気にする必要はありません。

*3才 男の子 「雨とアンパンマン」*
白画用紙に白い絵の具を使う。自分で考え、オリジナルの物語性を感じられる作品となった。

“親が楽しんでいる事柄”が子どもの心に染み込んでいく

冒頭に「子どもに色の名前を教えた方がいいのでしょうか?」と心配されることがあるという話しをしましたが、この場合もお子さん本人が「色の名前を知りたい」という色名への興味が出てきたら、ぜひ教えてあげたらいいですね。
その場合も“ただ教える”のではなく、親御さん自身が日常生活の中で、「この色の名前はね・・・・」などと、自分の色への興味や面白さなどを自然に語ったりすると、すっと子どもの心に記憶となって残るものです。


じつは、子どもの心に染み込むことは、親が楽しんでいることや興味を持っていることなのです。親御さん自身、衣食住に伴う色の楽しさやカラーコーディネートなど暮らしの色を一緒に楽しんでみるのもいいでしょう。

*13才 男子 「不思議な生き物」*
想像上の生き物へのイマジネーションやその形の面白さにこだわる時、色を使わず造形に集中することが多い。そこからユニークな形への発見が生まれてくるようだ。ピカソや岡本太郎にも負けない傑作だ。

気持ちを切り替え、新しいスタートを切りたいときに表現される「白」

ここでお見せするのは60代女性の作品です。腰痛で動けず寝込んだ後、“今日から仕事復帰”という時に作ったのが真っ白な「ペンギン」です。
腰痛で動きにくい様子がペンギンの体型となり、「さあ、今日から始まるぞ!」という再スタートの気分が「」という色に表れているかのようです。

*60代 女性 「ペンギン」*

また、小学3年生の男の子は、恐竜の人形を使い粘土で化石作りに没頭していました。学校で先生やお友達とうまくいかず、自分がどうしたらいいかわからなくなりあれこれ考えていた頃です。化石のように“新しい自分”を掘り起こしたかったのかもしれないというその子の気持ちを想像させてくれる表現力ですね。

たくさんの作品に出会っていく中で、「」には「気持ちを切り替えて、新しいスタートをきりたい」そんな気持ちも反映しているようです。
そんな表現を見ていると、まさに“これから何色にも染まること(変化すること)ができる”という“心の伸びしろ“を感じ、見ている方もワクワクしてきませんか。
心のままに、自由に表現する力は子どもも大人も皆さんが持っています。皆さんも好きな時に好きな色、好きな表現を思いっきり楽しんでくださいね。

*小学3年生 男の子 「恐竜の化石」*

※今回ご紹介した白色の例は色彩心理の調査に基づいた要素と、カウンセラーとお子さんとの関りやお子さん自身の状態なども含めてご紹介しています。なにより選んだ本人にとっての意味が大切なので、色から心の動きを自由に想像してみることを楽しんでください。