末永蒼生の“クレヨン先生”通信〈親と子のための色彩心理入門〉色シリーズvol.10「虹色・多色」

子どもはクレヨン箱に入っている色を全部使いたがるときがありますよね。乗り物でも花でも動物でも関係なくたくさんの色を塗り込みます。
とはいえ、子どもの色使いについて気になるお声もちらほら聞こえてきます。一体そこにはどんな心理が隠れているのでしょうか。

絵の中で表現される二つの意味合い

子どもが絵の中で使う色彩には大きく二つの意味合いがあります。

一つは、太陽を赤や黄色に塗ったり空や海を青く塗ったりというように、そのものの色を「忠実に描写する色使いの場合」。もう一つは「心理的な色使いの場合」です。

たとえば、太陽を黒く塗ったり、海を赤く塗ったりすることがあります。大人の目には異様に見えますし、つい「太陽は赤や黄色でしょう」と口を挟みたくなります。でも、これは子どもが実際の物の色を理解していないのではなく、心理的な色を表現しているのです。
ここで紹介するのは、「赤い海の絵」です。青いはずの海がまるで反転するように真っ赤に塗られています。これは1995年の阪神淡路大震災の直後、5歳の男の子が描いたものです。青いはずの海がまるで反転するように真っ赤に塗られています。よく見ると三日月も赤く塗られ不気味です。このような色が反転する表現は、精神的なショックを受けた時に表れやすいようです。まさに動転した心理の表現といえるでしょう。実はこのような表現は2011年の東日本大震災や2020年の新型コロナウイルス感染症が流行し始めた頃の子どもたちの絵にも表れていました。

*阪神淡路大震災のあと、5歳の男児が描いた赤い海の表現。色の反転は精神的な動転を感じさせる(1995年)

多色表現の心

次にお見せするのは同じ心の色の表現でも大人による多色表現の心理です。ぬり絵をベースにした30代女性の彩色です。出産、子育のためしばらく自身の活動をセーブしていましたが、学び直しを決め動き出した時の作品です。まさに「裸一貫!」学びへの意欲や興味が無数に沸き出ているように見えませんか?

*活動を再開した30代女性が表現したカラフルな色使い

このように、色を通して様々な感情が一挙に溢れていたり多彩なイメージが湧きだしているなど、心のエネルギーが外へ向かって広がっている印象です。こういう状態のときは「多色」が表現されるようです。この絵でも色が放射状に広がっていますが、外に向かって何かに大きく心動かされている、あるいは躍動する心が育まれているときといっていいでしょう。

それは絵の表現に限らず、たとえば人々はお祭りでは色とりどりの衣装を着飾ったりお祝いのイベントなどではカラフルな紙吹雪を使ったりします。夏の花火大会などで打ち上げられる多色の光にどよめくのも、まさに感情が湧き立つ表現といえるでしょう。

*Mくん 小学2年生*アトリエに入会してすぐの頃、アクリル絵の具の箱の端から端まで全色を楽しむ。初めてのアトリエへの不安、期待、楽しさ…さまざまな感情が画用紙いっぱいに溢れているよう

*Tくん 4才*「全部好きな色!」と折り紙をシュレッターで裁断し積み上げた。この日も大好きな惑星や国旗の創作を集中する一方で、模造紙にダイナミックに絵の具を広げる。ものすごいスピードでいろいろな情報を吸収し、それらを表現するエネルギーが湧き出ているかのような作品

喜怒哀楽、豊かな感情表現が「虹色」になる

虹色」というと、そのまま実際の「虹のイメージ」を思い浮かべる方も多いでしょう。
「虹」の中には私たちの視覚で捉えることのできる色相の「幅」がほぼそろっています。それぞれの色はさまざまな感情とつながっています。“虹の七色”という言葉があるように(赤・橙・黄・緑・青・藍・青紫)の7つの色名が使われることが多いようです。それは同時に私たちの多様な感情の幅を呼び覚まします。
心地よさや痛みの感覚、喜びや悲しみの感情などいろんな心がいっきにあふれるとき、それに満たされながら次に進んでいく…「虹色」にはそんな心の回復や再生が表れるのかもしれませんね。

それを感じさせられたのは、次にお見せする1995年阪神淡路大震災から4ヶ月経った後に小学2年生の女の子が描いた作品でした。

*1995年の阪神淡路大震災の後、7歳の女児が描いた人物の背後に広がる虹のイメージ。やっと落ち着いた生活が戻った頃、恐怖から解放されいつものさまざまな感情が解放されたことを物語る作品

新型コロナの流行が始まった時期の子どもたちの絵

2020年新型コロナウイルス感染症が流行し始めた頃、学校は休校となり不要不急の外出を制限され世の中が不安に渦巻いた時期です。「アートランド」も一時的に休校を余儀なくされました。そんな最中にアトリエに通う3人きょうだいが自宅で描いた共作です。

*新型コロナの感染症が始まり、子どもたちの絵には不安を感じさせる雲の彼方に希望を象徴するかのような虹の表現が表れた

突然のパンデミックに襲われ、この先どうなるか分からない不安はたくさんの雲となり今にも押し迫ってきそうです。不安や恐怖、希望や願い…子どもたちが抱くさまざまな感情は同時に終息を願うかのように「虹」となり雲の間に覗いています。この作品を見た時「終息への希望」を切に願ったことを覚えています。子どもたちが本来持つ、不安に立ち向かおうとする無意識の力が表現として発揮され、私たちの心に響いた作品です。

雨上がりの「虹」を見ると「いいことありそう!」、そんな風に思う心が子どもの中にも生きていることを感じる方もいらっしゃるでしょう。
皆さんはどんなとき「虹色」に惹かれますか?想像しながらお子さんたちと語り合うのもいいですね。

*アートランドの「虹色」や「多色」の作品たち*

※今回ご紹介した虹色・多色の例は色彩心理の調査に基づいた要素と、カウンセラーとお子さんとの関りやお子さん自身の状態なども含めてご紹介しています。なにより選んだ本人にとっての意味が大切なので、色から心の動きを自由に想像してみることを楽しんでください。